日本質的心理学会が刊行している『質的心理学研究』の第21号に私を第一著者とした論文が載りました!ただ,学会員でないとまだ読めないみたいです。たぶん1年くらいで一般公開されるはずです・・・!
タイトルは「実践としてのチームエスノグラフィ」です。ふつうエスノグラフィは一人で調査し,一人で書き上げるものなのですが,被災地に救援に行くときは,複数人で行くことがあり,そこで起きたことをチームとしてまとめあげることについて書きました。
こうやって書くと,チームでエスノグラフィを書くほうが内容も豊かになるし,事実確認(というか,いわゆる「裏とり」)もしやすくなるんじゃないの?って思われる方もいるかもしれませんが,実際はそんなに簡単なものではなく,複数人で書くからこそ見える事実が異なってしまい,結局のところ何が「事実」なのかわからなくなってしまうという事態に陥ってしまいまいがちです。この,複数の視点が乱立することで,事実が同定できなくなってしまうということを,黒澤明監督の映画『羅生門』にちなんで「羅生門問題」とか「羅生門効果」と言います。実際,チームエスノグラフィは結構書きにくいので,これまでほとんど研究成果がありませんでした。
この論文では,チームエスノグラフィにつきものの羅生門問題を,「なぜ同じものを見ているのに別々のように見えてしまうのか」という形ではなく,「なぜ別々の記述をしているのに同じものを見ていると信じてしまうのか」と問いを反転させることで,羅生門問題を新たな問いに気づくためのステップとして捉え直しました(この部分は矢守克也先生の議論を大いに参考にしています)。そうやって考えれば,チームエスノグラフィは気づかれざる前提に気づき,新たな実践を駆動させてくれる手法でもあるのです。
もうひとつ,この論文は熊本地震の被災地である益城町でぼくが出会った方々への恩返しのつもりで書きました。どこの誰かもわからない大阪から来た何人もの学生を,片付けなどで大変な時期にも関わらず,優しく受け入れてくれたみなさんがいたからこそ書けた論文です。ほんとうにありがとうございます。